リード
8月1日、アメリカのメディアが伝えた生活者や文化をめぐるニュースには、目まぐるしく変化する社会の移り変わりが映し出されている[1][2][4][5]。処方薬を買いにドラッグストアを訪れた客がそのままデオドラントや日用品を買い込み、音楽業界ではアルバム単位ではなく「時代」という短い区切りでスターが姿を変える[1][4]。年収7万5000ドル(約1,125万円)という一定の基準が人々の幸福感にどのような影響を与えるのかを分析した調査も公表された[5]。消費者の行動パターンが大きく変わるなかで、現地の生活者が何に価値を見いだし、企業がそれにどう応えようとしているのか、最新の動きをたどる[1][4][5]。
痩せる薬の処方が切り開く新しい買い物体験
全米で肥満治療薬「GLP-1」の需要が高まるなか、ウォルマートやコストコ、アマゾン、CVSなどの大手小売企業がこの市場で存在感を強めている[4]。企業が従業員向けのGLP-1保険適用を取りやめるケースが増えたことで、患者が直接消費者向け(DTC)の処方プログラムを利用する流れが加速した[4]。ソロモン・パートナーズのデジタルヘルスケア部門でマネージングディレクターを務めるエリック・ボーメルは「小売業者は、肥満ケアの窓口になることが単一のGLP-1処方にとどまらない関係の構築につながると賭けている」と語る[4]。薬自体の価格には下落圧力がかかっているものの、店舗やECサイトを毎月訪れるリピーターの存在は大きい[4]。処方薬を受け取るついでにペーパータオルや調味料などの日用品を買い足す動きが期待できるからだ[4]。体重の変化に伴い新しい衣類が必要になることも小売業にとって追い風となる[4]。かつては食料品や衝動買いの減少が懸念されていたGLP-1だが、今では長期的にお客を引きつける顧客獲得ツールとして位置づけられている[4]。
「アルバム」から「時代」へ移る音楽の消費サイクル
ポップスターの活動様式も大きな変化を迎えている[1]。アーティストのチャーリーXCXは、過去の自分と決別しながらキャリアを築いてきた[1]。5月、彼女は新曲「Rock Music」をリリースし、ファンが「ブラット・サマー」と呼んでいた前段階のブームに自ら終止符を打った[1]。「ダンスフロアは死んだ。だから今はロックミュージックを作っている」と不機嫌そうに歌い、「ロック」という言葉の母音をデジタル加工で金属的なノイズのように引き延ばす[1]。ファンの一部はこの新しい姿を歓迎したものの、冗談ではないかと疑う声も上がった[1]。現代の音楽界では、1枚のアルバムという単位よりも「エラ(時代)」と呼ばれる数カ月単位のテーマやスタイルでキャリアを刻むスタイルが定着しつつある[1][6]。もう一つの楽曲「Wink Wink」では、「私はもう悪い子じゃない、約束する」と歌った直後にウインクの音声を重ね、ファンの期待を巧みに揺さぶる[1]。ファンはスターが特定の季節や全盛期の姿のまま静止することを望む一方で、絶え間ない変化も求めている[1]。彼女の楽曲は、時間の流れを区切りながら遊ぶ現代ポップミュージックの巧妙な仕組みを示している[1]。
年収7万5000ドルと幸福な都市の条件
8月1日に公表された金融情報サイト「ウォレットハブ」の調査によると、全米182の主要都市を対象にした幸福度ランキングで、カリフォルニア州フリーモントが首位となった[5]。2位にはノースダコタ州ビスマーク、3位にはアリゾナ州スコッツデールが続いた[5]。この調査は居住者の所得、精神的健康、身体的健康、社会的つながりなどの要素を組み合わせて分析したものだ[5]。興味深いのは所得と幸せの関係について設定された基準だ[5]。ウォレットハブのアナリストであるチップ・ルーポは「研究によると、お金が増えることで幸福度が高まるのは年収が少なくとも7万5000ドル(約1,125万円)に達するまでで、それ以上稼いでも影響はほとんどない」と述べている[5]。そのため調査では年収7万5000ドル以上を稼ぐ世帯の割合を幸福度の主要な指標の一つとして採用した[5]。上位にランクインしたバーモント州サウスバーリントンやノースダコタ州ファーゴなどの都市では、単に高収入であるだけでなく、健康面や社会的つながりのバランスが評価されている[5]。
華やかなランウェイの裏に隠された伝説的デザイナーの孤独
文化の側面では、2008年に亡くなったデザイナーのイヴ・サンローランの晩年を捉えたドキュメンタリー映画「Celebration」が注目を集めている[2]。オリヴィエ・メイルー監督が手がけたこの作品は、1999年のCFDAファッション・アワード授賞式のためにニューヨークを訪れた彼の姿を映し出す[2]。ビジネスパートナーのピエール・ベルジェ(当時68歳)に付き添われたサンローラン(当時62歳)は、靴クリームのような濃い茶色に染めた髪を撫でつけ、不安そうに唇を舐めながら廊下をよろよろと歩く[2]。華やかなファッション界の重鎮でありながら、その姿は酷く虚弱で見劣りしていた[2]。ステージ上で彼はつっかえがちな英語で感謝を述べ、デザイナーは作品のためにすべてを犠牲にする芸術家のように行動しなければならないと語った[2]。1998年にサッカー・ワールドカップを記念してフランススタジアムで開催された大規模なショーなど、息をのむような美しい服を生み出した才能の裏で、彼はアルコールや薬物依存、重い抑うつ状態に生涯苦しんでいた[2]。ドキュメンタリーは、表面上のきらびやかなイメージと、その陰にある生々しい人間の脆さとの間の深い亀裂を静かに描き出している[2]。
日本から見ると
肥満治療薬をきっかけに日用品まで買い揃えさせるアメリカの小売企業の動きは、顧客との接点をあらゆる場所に広げようとする執念を感じさせる[4]。処方薬の受け取りという必然的な外出をビジネスの起点にする発想は、コンビニエンスストアが生活インフラとなっている日本でも参考になる[4]。一方で、年収7万5000ドル(約1,125万円)という幸福度の飽和点は、物価高や為替の影響を考慮しても、豊かさと幸せの関係を考え直す基準になる[5]。また、音楽をアルバムではなく短い「時代」として消費する潮流は、SNSのショート動画などを通じて急速に曲が消費される日本の若者文化とも重なり合っている[1]。合理的で変化の速いアメリカの暮らしから、私たちが学べるものは少なくない[1][4][5]。