リード
7月28日、スウェーデンのメディアは人々の暮らしや価値観の変化を伝える記事を相次いで報じた[1][2][5]。首都ストックホルムでは7月27日からLGBTQIA+イベント「ストックホルム・プライド」が開幕し、多様性を掲げる参加者が街頭に集まっている[5]。一方で、若者の間ではSNSから距離を置き、自宅で編み物や手芸に没頭する「おばあちゃんの趣味」が広がりを見せる[1]。画面越しの過剰な情報に疲れた人々が、自分の身体感覚や一人の時間を静かに慈しむ姿が、現在のスウェーデンの夏を形作っている[1][2]。
「おばあちゃんの知恵」がZ世代を虜にする手仕事リバイバル
角のないかぎ針を丁寧に動かし、柔らかな毛糸を編み込んでいく[1]。スウェーデン文化分析庁が公表した調査結果によると、過去1年間に手仕事やクラフトに取り組んだ人の割合は前年の46%から56%へと上昇した[1]。毎月手仕事を行っている人も31%に達している[1]。これまで手芸の中心は高齢者層だったが、今回の調査では16歳から29歳の若年層で最も高い人気を示した[1]。ユース・バロメーター社がまとめた2026年のトレンドレポートでも、裁縫や工作といった「おばあちゃんの趣味」がZ世代の関心を集めている状況が示されている[1]。この現象をかつての伝統的な性別役割への回帰と見る向きもあるが、同レポートは異なる側面を強調する[1]。若者たちが求めているのは成果を競うパフォーマンスではなく、居心地の良さを意味する「Mys(ミューシス)」や、画面越しではない物理的な創作活動だ[1]。デジタル機器からの絶え間ない刺激を遮断し、手元に集中する静かな時間が若い世代の癒やしになっている[1]。
孤独さえもコンテンツに変化するSNSの新潮流
「私には友達がいない」と動画で語りかけるのは、カナダ出身の投稿者ラナ・アイサ氏だ[2]。仕事から帰宅すると花柄のパジャマに着替え、冷凍ピザを温める香りが漂う部屋でテレビを見る[2]。こうした独身で一人暮らしの日常を収めた短尺動画が、SNS上で多くの共感を集めている[2]。北米のメディアはこうした投稿者を「孤独インフルエンサー」と呼ぶ[2]。英国ウィザー出身で清掃員として働きながら動画を投稿する40代のサラジェーン・ホードリー氏は、3年前に暴力を伴う関係を離れ、2026年1月から一人暮らしの様子を記録し始めた[2]。ホードリー氏は「孤独インフルエンサーという呼び方は妙だが、子供がなく限られた人間関係で生きる身としては納得できる」と明かす[2]。自らの孤独や静かな生活を隠さず、淡々と室内でのスキンケアや散歩の様子を見せる投稿は、華やかさを競う従来のSNSに疲れ、ありのままの暮らしを求める利用者の受け皿となっている[2]。
逃げ場を奪われないために集うプライドの現場
7月27日、ストックホルムのノーラ・バントルイェットにある会場「プライド・ハウス」で、ドラァグキングのワークショップや討論会とともにプライド週間が始まった[5]。会場入口では厳しい手荷物検査が行われ、整然とした緊張感が漂う[5]。ドイツのベルリンで発生したプライドイベントでの殺傷事件からわずか1日後の開幕となり、参加者の間には様々な思いが交錯していた[5]。40年ぶりに参加したレンナート・サンドベリ氏は「ベルリンの件を知り、自分自身がここに存在し、姿を見せなければならないと感じた」と語った[5]。実行委員長のモンス・アクセルソン氏は、警察と連携して万全の安全対策を講じていると説明する[5]。会場を訪れたエマ・ヨハンソン氏は「他人に害を与えない限り、誰もが自分の体を自分で決め、生きたいように生きる権利があるのは当然だ」と話す[5]。参加者たちは安全面に留意しながらも、自らの権利と多様性を主張するために現地へ集まっている[5]。
歳の壁を科学の視点から検証する身体のエイジング
SNS上では「30代に入ると一気に体が衰える」という動画が拡散し、若者の不安を煽っている[3][7]。この疑問に対し、公共放送SVTの記者が専門家に取材を行い、身体の衰えに関する実態を検証した[3]。カロリンスカ研究所の助教でスポーツ医学専門医のリンダ・エケンロス氏は、生物学的な変化は20代からすでに始まっていると説明する[3]。心肺機能や筋肉量は20代前半でピークを迎え、その後は徐々に体内に蓄えられた予備能力を使っていく[3]。加齢に伴い骨密度が低下し筋肉量が減っていくのは自然な経過だが、日頃の生活習慣がその進行速度を左右する[3]。エケンロス氏は「60代まで不活発だった人であっても、運動を始めるのに遅すぎることはない。身体は驚くほど順応性が高い」と強調する[3]。焦って過度な運動をするのではなく、段階的に負荷をかけて体を動かすことが健康維持に有効だと訴えている[3]。
背景を少し
スウェーデンでは近年、若者のSNS利用時間が伸びるにつれ、心理的・身体的な影響に関する議論が活発化している[7]。過度な情報接触や他者との比較は、体型に対する強いこだわりや健康上のリスクを引き起こす要因として警戒されてきた[7]。こうしたデジタル社会の疲弊に対し、自分の手を動かすクラフト作業や、装飾のない等身大の生活を見せる投稿が支持を得ている状況は対照的だ[1][2]。政府機関の文化分析庁が実施する調査でも、文化活動の関心が見るだけのアクティビティから自発的な手仕事へと広がっているデータが示されている[1]。人々は画面上の演出から離れ、自分の身体感覚や生活空間を整えることに実用的な価値を見出している[1][2]。
日本から見ると
デジタル機器の普及による疲弊感や、SNS上で他人の生活と比較して生じるストレスは、日本の生活者にも共通する課題だ。スウェーデンで広がる編み物ブームや孤独を発信する投稿者の存在は、他者からの評価ではなく自分自身の心地よさを最優先する生活スタイルを示している。日本では「ソロ活」という言葉が浸透しているが、北欧では一人でいることや地味な日常をそのまま開示し、肯定する動きが見られる。また、30代からの体力変化に対する不安に対し、科学的な知見から冷静に向き合い、何歳からでも運動習慣を始められると提示する姿勢も参考になる。過剰な情報や年齢への捉われから距離を置き、自分のペースで暮らしや健康を整える手法は、デジタル化と高齢化が進む日本の日常にも多くのヒントを与えてくれる。