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LOCAL NEWS · 世界のローカルニュース · 2026-07-26

ガスピ追悼に600万人、離婚は60歳から——路上の空気で読むアルゼンチン

7月25日、スペイン・セビリアで開かれたストリーミング格闘技イベント「ラ・ベラーダ・デル・アニョVI」で、6月に事故死したアルゼンチンのインフルエンサー、ガスピへの追悼が行われ、配信は600万人に達した。同じ週、ブエノスアイレスでは60歳以上の離婚が過去15年で急増した統計が話題になり、街のカフェでは「誰の所有物でもない」という言葉が静かに交わされている。デジタルと日常、二つのアルゼンチンの断面から、成熟社会の個人の選択を考える。

ローカルニュース中南米5本のローカル記事から

リード

ブエノスアイレスのアルマグロ地区。サルミエント通り4488番地にある「コンフィテリーア・パステレーロス」では、焼きたてのキャロットケーキの甘い香りが歩道にまで漏れ、仕事帰りの客がアルファホーレスを指さしている[5]。その隣町の空気を一変させたのが、7月25日の夜、スマートフォンの画面越しに届いたスペインからの熱狂だった。セビリアのラ・カルトゥハ闘技場で開かれたストリーマー、イバイ・ジャノス主催の格闘技イベント「ラ・ベラーダ・デル・アニョVI」。その中継で、6月14日にブラジルでのヘリコプター衝突事故で23歳の若さで亡くなったアルゼンチン人ユーチューバー、ガスパル・プリム・ディアス(通称ガスピ)への追悼が行われたのだ[1]。この国では今、路上のカフェとデジタル画面の両方で、人がどう生き、どう別れ、どう悼むかという問いが同時に更新されている。

セビリアの闘技場に響いた「ガスピ」コール——デジタル時代の追悼

イバイ・ジャノスが観客に1分間の黙祷を求めると、闘技場は静寂に包まれた。沈黙を破ったのは、詰めかけた数万人の観客が一斉に唱和した「¡Gaspi! ¡Gaspi!」の叫びだった[1]。ジャノスは舞台上に立つガスピの母ミシェル・ディアスと兄フェデリコ・プリムを紹介し、「彼は素晴らしい人間で、とてつもない才能の持ち主だった」と声を詰まらせた。母はリングの上で泣き崩れ、ジャノスが歩み寄って抱きしめる場面は、600万人が視聴した配信のハイライトとなった[1]。ガスピは前年の「ラ・ベラーダ」に出場していた縁があり、ジャノスにとって個人的な友人でもあった。スペインの新聞各紙がこの追悼を「感動的」と報じ、アルゼンチンの主要紙クラリンも7月25日付で詳報した。会場にはガストン・エドゥルやヘロニモ・アリアスらアルゼンチン人出場者もおり、彼らの拳の応酬と、画面越しの追悼が一体となった夜だった。このイベントはもともと、ストリーミング界の有名配信者たちがボクシングで対戦する興行だ。しかし7月25日の夜、デジタルネイティブたちは競技の枠を超え、画面の前でひとつの喪を共有した。それは教会でも式場でもない、生配信という新たな「場」での悼み方だった。

「誰の所有物でもない」——60歳からの離婚がブエノスアイレスで増加

「私は42年間、従属していたんです」——そう振り返るのは、66歳で離婚を決意したベルタ・スカルディーニさんだ。現在73歳、ブエノスアイレスから南へ400キロの海岸町サンタ・クララ・デル・マールでひとり暮らす[3]。きっかけは、病気の息子を支える日々の中で、夫からの「ねぎらいの言葉ではなく、毎日の非難ばかり」に気づいたことだった。別れて最初に感じたのは悲しみではない。「自由だ、と思った」と言う。ブエノスアイレス市統計・国勢調査局によると、市全体の離婚件数に占める60歳以上の男性の割合は2009年の11.8%から2025年には18.4%に、女性は7.7%から12.1%に上昇した[3]。アルゼンチンの全国紙ラ・ナシオンは7月26日、「誰の所有物でもない」との見出しで、この「灰色離婚」現象を伝えた。スカルディーニさんは30年以上、集中治療室や精神科で看護師として働き、5人の子、12人の孫、2人のひ孫に囲まれてきた。「一生続く愛なんて信じません。もし同じ年代の人が別れたいと思うなら、前に進めばいい」。そのうえで、自己肯定感が低いままでは危ういと警告する。人の死と隣り合わせだったキャリアが、彼女の言葉に静かな重みを与えている。

ワインボトル750ml、その容量を決めたのは中世の商人だった

アルゼンチンの食卓に欠かせないワイン。その瓶の容量が750ミリリットルである理由をめぐっては、長年さまざまな「都市伝説」が流布してきた。「昔のガラス職人の肺活量の限界」「1キロのブドウから750ミリリットルのワインがとれる」「ナポレオン時代のフランスで定められた」——。7月26日付のクラリン紙がこれらを「すべて誤り」と一刀両断し、真の起源を解説した[2]。実際のルーツは中世ヨーロッパの国際貿易にある。当時の基準単位は英国ガロンで、その5分の1が運搬に最適とされた。これが750ミリリットルである。標準的な木箱に6本、あるいは12本詰めると、きっかり2ガロンになる計算だ[2]。欧州連合が容器規制で750ミリリットルを正式採用したのは1975年。米国も追随し、今日の世界的規格へと固まった。ただし、劣化の少なさで最も優れるのは1.5リットルのマグナム瓶だという。瓶内の酸素比率が小さいためだ[2]。カフェのテーブルを囲みながら、アルゼンチン人は今夜もこの「中途半端な容量」の瓶を傾けている。そのガラスの厚みには、商人たちの合理的な判断が閉じ込められている。

スパイダーマンが前衛劇に——ブエノスアイレス、ミームから舞台への跳躍

「¿Cómo se llama la obra?(その劇、なんてタイトル?)」——かつてはアナログ時代の小話の落ちだったこのフレーズが、ブエノスアイレスで現実の舞台名になった。7月下旬、市内のテアトロ・アルベアールで、グルポ・マレアが新作を上演した。題して『ラ・オブラ(La Obra)』、すなわち「作品」[4]。ラ・ナシオン紙は7月26日、この演劇を「前衛的」と評した。舞台装置には、あの有名なスパイダーマンのミーム——互いを指さし合う複数のスパイダーマンの画像——が投影される。原作は1967年のテレビアニメ「スパイダーマン」の一編「二重のアイデンティティ」で、悪役チャールズ・カメオと主人公が「偽者だ」と叫び合う場面が、2011年にミーム化し、メタ社のマーク・ザッカーバーグもツイートしたことで世界的に拡散した[4]。このポップカルチャーの断片を、アルゼンチンの演出家たちは「自己言及」の装置として舞台に上げた。劇評は「オリジナルとコピーが互いを非難する構造そのものが現代社会の暗喩」と指摘する。スパイダーマン新作映画『ブランド・ニュー・デイ』が控える7月、ブエノスアイレスの観客は舞台の上で、ネット上と同じ画像を見つめながら、現実と模倣の境界を考えていたのかもしれない。

日本から見ると

日本でも高齢者の離婚、いわゆる「熟年離婚」は2005年の年金分割制度導入以降、社会の関心を集めてきた。しかし、ブエノスアイレスで取材された女性たちの口調からは、「残りの人生の所有権を取り戻す」という、より根源的な意思が伝わってくる。背景に、アルゼンチンでは2015年に民法が改正され、離婚が従来よりも簡易になったことがあるのだろうか、と思いながら記事を読んだ。ワインボトルの規格をめぐる説明も面白い。日本の酒類売り場では、720ミリリットルの四合瓶が清酒の標準だが、ワインは世界と同じ750ミリリットル。アルゼンチンの生活者がボトルを手に取りながら「なぜ?」と問う習慣そのものが、食文化への知的な距離感を感じさせる。デジタル追悼と前衛演劇からは、画面と現実の境界を軽やかに行き来する都市のリズムが見えた。日本でも配信イベントは巨大市場だが、死者への黙祷が「画面の前の共同体」をこれほどまでに可視化した例は多くない。ガスピを悼む群衆の声は、ブエノスアイレスのカフェのざわめきと地続きの、もうひとつの路上の風景だった。

出典

  1. [1]🇦🇷 アルゼンチンEl emotivo homenaje a Gaspi en La Velada del Año 2026, a un mes y medio de su muerte: el desgarrador llanto de su madreclarin.com
  2. [2]🇦🇷 アルゼンチンLa insólita historia de por qué las botellas de vino contienen 750 ml y no 1 litroclarin.com
  3. [3]🇦🇷 アルゼンチン“Nadie es dueño de nadie”: divorcios después de los 60, una tendencia que crece a espaldas del qué diránlanacion.com.ar
  4. [4]🇦🇷 アルゼンチンEl beso del hombre araña y el teatro de vanguardialanacion.com.ar
  5. [5]🇦🇷 アルゼンチンDiez cafés y restaurantes para descubrir la gastronomía de uno de los barrios con más historialanacion.com.ar