読み物一覧へ戻る
LOCAL NEWS · 世界のローカルニュース · 2026-09-02

ヘルシンキの公園にUFOが不時着? 木タールを味わい悪路を笑うフィンランドの秋

フィンランドの首都ヘルシンキの公園に9月2日、1960年代の未来像を象徴する円盤型の住宅「フトゥロ」が姿を現し、デザインウィークに沸く街の話題をさらっています。一方で地方では、穴だらけの「最悪の田舎道」を写真で競う自虐的なコンテストが始まり、国民的作家の意外な素顔を明かす伝記が波紋を広げるなど、この国特有のユーモアと文化の深さが際立っています。森の恵みである木タールを食文化にまで昇華させる独特の感性から、北欧の生活者が今、何を楽しみ、何を慈しんでいるのかを伝えます。

ローカルニュース北欧5本のローカル記事から検証中

リード

初秋の柔らかな光が差し込むヘルシンキ中心部、歴史あるカイサニエミ公園の芝生の上に、周囲の風景から浮き上がった鮮やかな物体が鎮座しています。それは1968年に建築家マッティ・スウロネンが設計した、空飛ぶ円盤そっくりのプラスチック製住宅「フトゥロ」です。丸い窓が並ぶ滑らかな曲線美を湛えたその建物の前には、中を一目見ようと長い列ができています。かつて人類が夢見た「未来の暮らし」が、半世紀の時を経て現代の公園に不時着したかのような光景です。今週のフィンランドは、こうしたレトロフューチャーな建築の復活から、伝統的な食の偏愛、さらにはボロボロの田舎道を笑い飛ばす自虐的なコンテストまで、この国らしい「こだわり」に満ちた話題で持ち切りです[1][2][4]

年代の未来像「空飛ぶ円盤ハウス」が現代の公園に不時着した理由

9月2日、ヘルシンキ・デザインウィークの目玉として公開されたこの「フトゥロ」には、数奇な物語が隠されています。実はこの1棟、当時の金型を用いて新たに完成した「最後の1体」なのです。プロジェクトのきっかけは、カリフォルニアとオランダを拠点に古い建物の修復を手がけるヤン・ファン・デイスが、フェイスブックで売りに出されていたオリジナルの金型を偶然見つけたことでした[1]。金型を売っていたのは、かつての製造元が破産した際にこれを入手した企業の幹部でした。ファン・デイスはフィンランドとの縁も「フトゥロ」の知識もありませんでしたが、その造形に魅了され、すぐにフィンランドへ飛びました。設計者マッティ・スウロネンの遺族から快諾を得ると、かつて3棟のフトゥロを修復した実績を持つピエクサマキの専門業者「エキン・ムオヴィ」に組み立てを依頼しました。同社のエルッキ・ラッピ代表は、過去にオーストリアやトルコ、そしてエスポーの博物館にある個体を手がけた熟練の職人です[1]。デザインウィークの創設者カリ・コルクマンのもとには、毎日膨大なメールが届きます。未読メールが1万2000通に達する中、スタッフが偶然このファン・デイスからの提案を見つけ出したことで、今回の展示が実現しました[1]。かつてスキー小屋として考案され、石油危機で生産が途絶えたプラスチックの夢が、現代のデザイナーたちの手で再び息を吹き返したのです。

ボロボロの悪路をユーモアで愛でる、フィンランド流の自虐フォトコンテスト

華やかなデザインの祭典の一方で、フィンランドの地方部では「実利」を巡るユニークな戦いが始まっています。フィンランド村落協会とフィンランド道路協会は、国内で最も状態の悪い村道を決める「最悪の田舎道」写真コンテストの開催を発表しました[2]。これは単なる不満の表明ではありません。広大な国土に点在する集落を結ぶ道路網の老朽化を、写真とエピソードで可視化しようという試みです。応募の締め切りは10月2日で、参加者は穴だらけの路面やぬかるんだ道の写真とともに、それが生活にどう影響しているかを綴ります[2]。2025年の優勝者は、キッティラにあるマアンティエ9562号線でした。凍結している冬場は走れるものの、雪解けとともに巨大な水たまりと泥の海に変わる未舗装路です。また2024年に「家畜輸送のジャンピングコース」という名で投稿され優勝したサキュラの道は、あまりの凹凸にトラックの走行もままならない惨状でした[2]。道路協会のリーサ=マイヤ・トンプソンは「一つひとつの穴や轍の裏には、通学路や仕事、企業の物流といった具体的な物語がある」と語ります[2]。インフラの不備を怒りのデモではなく、自虐的なユーモアを交えた「物語」として発信する手法に、フィンランド人の粘り強い気質が見て取れます。

「新品は一つもありません」——北欧の蚤の市文化が生んだ次世代モール

フィンランドには「キルップトリ」と呼ばれる蚤の市文化が深く根付いていますが、その進化系とも言える施設が東部の街クオピオに誕生しました。8月にオープンした「ルップ(Luuppi)」は、入居するすべての店舗が中古品やリサイクル品のみを扱うという、国内でも類を見ないサーキュラーエコノミー(循環型経済)センターです[3]。施設内は最新のショッピングモールのように明るく洗練されており、従来の「古着屋」のイメージを覆しています。買い物に訪れたピルッコ・ペッカラは、男性用のワイシャツ2枚を購入したばかりでした。彼女はこれを材料に、自分好みのピンクのフリルシャツにリメイクするつもりだと話します[3]。フィンランドの人々にとって、中古品を買うことは単なる節約ではなく、創造的な楽しみであり、環境への誠実な態度でもあります。最新の流行を追うのではなく、古いものに新しい価値を見出す。そんな北欧の現在地が、このピカピカの「中古専用モール」に象徴されています。

なぜフィンランド人は「木タールの味」を愛してやまないのか

フィンランドの味覚について、イギリスのBBC放送が「フィンランド人が食べるのをやめられない、驚くべきスモーキーな泥」と題した特集を組み、話題を呼んでいます。その正体は、松の木を蒸し焼きにして抽出する「木タール(Terva)」です[4]。かつては船の防腐剤や薬として使われていたこの黒い液体は、フィンランドでは今や欠かせないフレーバーです。BBCの記者が「タール・キャピタル」と呼ばれる北欧の都市オウルを訪れた際、カフェでパンケーキのトッピングを聞かれ、「アーモンド、タール、ブルーベリー……」と平然と並べられたことに衝撃を受けたと伝えています[4]。タールの用途は多岐にわたります。キャンディやアイスクリーム、スナップス(蒸留酒)から、パンやビール、肉料理のソースにまで使われます。オウルの文化プロジェクト「アークティック・フード・ラボ」のコーディネーター、マッティ・モレルは「タールは非常に強烈な風味なので、ほんの少量で十分な効果がある」と解説します[4]。日本人にとっての燻製香や焚き火の匂いに近いその香りは、森と共に生きてきた人々の郷愁を誘う、魂の味なのです。

愛されクマの生みの親は大胆な嘘つきだった? 児童文学の巨匠をめぐる新伝記

フィンランドでムーミンと並び愛されているのが、詩を書くクマのキャラクター「ウッポ・ナルレ(おぼれクマ)」です。その生みの親である作家エリナ・カルヤライネン(1927〜2006年)の最新の伝記が、大きな反響を呼んでいます。タイトルは『エリナ・カルヤライネン——小さな雲の断片の上で』。著者のシリヤ・ヴオリクルは、作家が自身の人生について語ってきた数々の逸話が、実は大胆な「作り話」であったことを明らかにしました[5]。親族の間では、彼女が話を盛ることを「サクラ(飾り)を添える」と呼んでいたといいます。12歳で母親を亡くした彼女は、わずかな記憶と写真から「母の物語」を捏造せざるを得ませんでした。ヴオリクルは、彼女の虚言を病気ではなく、欠落した現実を補うための心理的な必要性から生じたものだと分析しています[5]。1999年のインタビューで、カルヤライネンは「自分の作り話をいくら披露しても、誰も嘘つきだと責めない職業(作家)を見つけられて幸せだ」と語っていました。周囲が「それは嘘だ」と指摘しても、彼女は決まって「私はそう覚えている(Näin minä sen muistan)」と答えたそうです[5]。嘘を「物語」に変えて子供たちに夢を与えた巨匠の素顔を、フィンランドの人々は困惑しつつも、どこか微笑ましく受け止めています。

背景を少し

フィンランドにおける木タールの歴史は古く、17世紀から19世紀にかけては主要な輸出製品でした。当時は木造船の防水剤として不可欠な資源であり、オウルはその集積地として繁栄しました[4]。現在では工業的な需要は減りましたが、サウナの芳香剤や食品フレーバーとして、その独特の香りは「フィンランドらしさ」を象徴する文化遺産となっています。また、今回話題となった「フトゥロ」ハウスは、世界に100棟ほどしか現存しない希少な建築です[1]。1960年代、安価で加工しやすいプラスチックは「無限の可能性」を持つ新素材として熱狂的に受け入れられていました[1]

日本から見ると

フィンランドのニュースに触れると、彼らが「完璧ではないもの」や「不便なもの」に対して抱く深い愛情に驚かされます。穴だらけの道を写真に撮って笑い、中古品だけのモールでリメイクを楽しみ、建築家のついた嘘さえも創作の源泉として慈しむ。効率や新品の価値を最優先しがちな日本の都市生活から見ると、彼らの姿勢は非常に贅沢に映ります。特に「木タールの味」への執着は、日本の「燻し」の文化にも通じるものがありますが、それをアイスクリームにまで入れてしまう大胆さは独特です。また、フトゥロのような実験的な建築が、単なる保存対象ではなく「今も作れるもの」として公園に現れる柔軟さも興味深い点です。不便さや古さを排除するのではなく、そこにユーモアやデザインの力を加えて「面白がる」彼らの感性は、成熟した社会が持つ一つの理想的な姿なのかもしれません。

出典

  1. [1]🇫🇮 フィンランドUfon muotoinen klassikkorakennus nousi keskelle Helsinkiä – kalifornialaismies saattoi valmiiksi viimeisen Futuro-talonyle.fi
  2. [2]🇫🇮 フィンランドLöytyykö tätä tietä karmeampaa koko Suomesta?is.fi
  3. [3]🇫🇮 フィンランドHS Kuopiossa | Kävimme kiiltävässä ostoskeskuksessa, jossa kaupat myyvät vain käytettyä tavaraahs.fi
  4. [4]🇫🇮 フィンランドBBC hehkuttaa herkkua, jonka ”syömistä suomalaiset eivät voi lopettaa”yle.fi
  5. [5]🇫🇮 フィンランドUppo-Nallen luoja jäi kiinni hurjista sepityksistä – tuore elämäkerta kyseenalaistaa monet tarinatis.fi