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LOCAL NEWS · 世界のローカルニュース · 2026-08-01

熟成マラケータが高級デザートに、チリ版「パン宗教」の最深部

チリの名門レストラン「ボラゴ」が、伝統的なパン「マラケータ」を3週間熟成させたデザートを冬季メニューに加えた。同国ではテニスのアレハンドロ・タビロが7月31日にワシントンATPで番狂わせを起こし、貧困地区の芸術団体は8月2日に市立劇場の舞台に立つ。首都サンティアゴの移民街では、アラブ系商店の隣に韓国コスメ店が並ぶ光景が日常になりつつある。食卓からスポーツ、街角の風景まで、チリの日常に埋め込まれた変容の手触りを伝える。

ローカルニュース中南米5本のローカル記事から

リード

南半球のチリは今、冬の最中にある。8月に入り、サンティアゴの朝の気温は氷点下近くまで下がる日も珍しくない。そんな寒さのなか、市内のパン屋からは早朝から焼きたてのマラケータの香ばしい匂いが漂い、人々は厚手のコートの襟を立てて列に並ぶ。チリ人のパン消費量は年間約90キロと世界有数で、とりわけ中央にくぼみのあるマラケータは「食卓の宗教」とさえ呼ばれる[1]。だが、この8月、そのマラケータをめぐる話題は、いつもの朝食の風景をはるかに超えたところで沸騰している。高級レストランのデザートへの変身、テニスコートでの快挙、貧困地区発の芸術団体の晴れ舞台、そして移民街に押し寄せるK-POPの波——どれもが、チリという国の今の空気を静かに、しかし確かに書き換えている。

週間熟成、キノコと海藻のキャラメル——「ボラゴ」が挑むパンの再定義

サンティアゴの高級レストラン「ボラゴ」のシェフ、ロドルフォ・グスマンが8月1日、自身のインスタグラムで冬季限定メニューの一品を公開し、話題を呼んでいる[1]。主役は、チリの食卓に欠かせないマラケータだ。ただし、その姿は一般的なパンとは似ても似つかない。グスマンによれば、まずマラケータを「青カビチーズのように」3週間かけて熟成させる。その後、薪でじっくりとあぶり、中には三種類のアイスクリームを詰める。フレッシュなパンのアイス、チリ南部原産のキノコ「ロヨ」のアイス、そして過発酵させたパンのアイスだ。仕上げには海藻とキノコから作ったキャラメルを添え、甘み、焦げた香ばしさ、うま味、そして海の風味を一皿に閉じ込めるという。「チリではパンをあらゆる規模と量で愛している。マラケータは宗教であり、このデザートは我々が作った中で最も美味しいものの一つだと思う」とグスマンは語る[1]。日常のパンに手間と技術を注ぎ込み、未知の味わいへと昇華させる試みは、伝統食の再解釈としても、冬のサンティアゴの美食シーンを語る上でも見逃せない。

ワシントンで地元の星を撃破——タビロが世界に示したチリの現在地

7月31日、米国ワシントンD.C.で行われた男子テニスATPツアー「ムバダラDCオープン」の準々決勝で、世界ランク30位のアレハンドロ・タビロが、同8位で地元アメリカのベン・シェルトンを4-6、7-5、6-4のフルセットで破る波乱を起こした[2]。試合時間は2時間23分。スペインのスポーツ紙「マルカ」は「タビロが大番狂わせを演じた」と報じ、ユーロスポーツは今大会の前評判を覆す展開に焦点を当てた[2]。タビロはカナダ・トロント生まれで、チリ人の両親のルーツを背負って国際舞台に立つ。次の準決勝では、スペインのラファエル・ホダル(世界24位)と対戦する。両者は今年3月のインディアンウェルズ大会1回戦で顔を合わせ、その際はタビロが6-1、6-2と圧倒している[2]。真冬のチリにとって、北半球の真夏のコートから届く快進撃の知らせは、寒さを吹き飛ばす熱を帯びている。

「怖くて入れない」と言われた地区から、市立劇場へ——舞踊団ライピジャンの20年

「ライピジャンは差別から生まれたんです」。そう語るのは、サンティアゴのラ・レグア地区で活動する芸術団体「ライピジャン」の創設者ファビオラ・サリナスだ[3]。同団体は8月2日、チリを代表する格式高い会場であるサンティアゴ市立劇場での公演を控えている。発端は2004年12月22日。当時、教員を目指して実習中だったサリナスは、小学校の卒業式で披露するフォルクローレの踊りを同僚に依頼した。しかし直前に「ラ・レグアは銃撃や犯罪が怖くて入れない」と全員が辞退[3]。サリナスは娘と二人の甥に声をかけ、急ごしらえの演目をやり遂げた。その小さな成功が、地域の子どもたちや高齢者を巻き込む活動へと育ち、20年を経て国内最高峰の舞台に立つまでになった。ラ・レグアは長らく治安の悪さで知られ、外部の目は偏見に満ちていた。しかし、サリナスとライピジャンの歩みは、音楽とダンスが社会のまなざしを変えうることを静かに証明している。8月の厳しい冷え込みのなか、劇場に響く民族音楽の素朴な温もりが、それを何より雄弁に物語るだろう。

アラブ移民の街にK-POPコスメ——パトロナートの静かな地殻変動

サンティアゴのレコレタ区にあるパトロナート通りは、1940年代からパレスチナやレバノン系移民が繊維業や衣料品店を営んできた地区だ。パレスチナ生まれのジョセフ・サバネグ(1955年生まれ)は、1歳でチリに渡った両親が1984年に開いた衣料品店「アラビック」を継ぎ、長年商いを続けてきた[4]。ところが、7月29日(水曜日)の午後4時、サバネグの店は引っ越しの真っ最中だった。商品をかけていたラックは空になり、什器は次々と運び出されていく[4]。パトロナートでは今、韓国系の事業者が店舗を拡大し、K-POP関連グッズや韓国コスメを求める若者で賑わう光景が日常になりつつある。アラブ系商店街の一角で、別の文化の波が静かに浸食を始めているのだ。この変容は、単なる商業の交代劇ではない。歴史ある移民コミュニティの上に、新たなグローバル文化が重層的に積み上がる様は、チリ社会の多文化共生の現在地をくっきりと映し出している。アラブの香辛料の匂いと、韓国コスメのパッケージを開ける若者たちの興奮が、同じ通りで交錯する——それが2026年8月のパトロナートの実像だ。

日本から見ると

チリ人が「パンは宗教」と言い、年間約90キロものパンを消費する感覚は、日本人がコメに抱く思いに近いかもしれない[1]。しかし、その主食を3週間も熟成させ、高級デザートに変えるという発想は、日本ではまず出てこない。コメを同様に扱うとしたら、麹で発酵させた甘酒のアイスクリームに、煎り米の香ばしさを重ねるようなものだろうか。いずれにせよ、日常の食べ物をここまで極端に引き伸ばして遊ぶ精神は、チリの食文化の層の厚さを感じさせる。一方で、貧困地区の芸術団体が市立劇場に立つという話は、日本の公共ホールが果たしてきた役割と重なる部分がある。違いがあるとすれば、ラ・レグアの事例が「差別から生まれた」という原体験の強さだ。困難を芸術に転化するエネルギーは万国共通だが、その火種は社会の分断が深い場所でこそ激しく燃えるのかもしれない。また、パトロナートの移民街にK-POPが流入する風景は、東京の新大久保を思わせるが、受け入れ側がパレスチナ系という重層性はチリならではだ。異文化の波を幾重にも受け止めてきた土地の記憶が、街の新しい表情をより複雑で豊かなものにしている。

出典

  1. [1]🇨🇱 チリ¿Marraqueta con hongos?: restaurante chileno innova con lujoso postre en base al tradicional panbiobiochile.cl
  2. [2]🇨🇱 チリLa prensa internacional reacciona a la sorpresiva victoria de Alejandro Tabilo sobre Ben Shelton en el ATP de Washingtonlatercera.com
  3. [3]🇨🇱 チリDe La Legua al Teatro Municipal: Raipillan, la organización que derriba estigmas a través de la música y la danzalatercera.com
  4. [4]🇨🇱 チリPatronato: el barrio donde el boom coreano se abre paso entre las raíces árabeslatercera.com
  5. [5]🇨🇱 チリ¿De dónde viene la expresión popular “pasar agosto” y qué tan real es?latercera.com