リード
ロシア南部、コーカサス山脈に位置するエルブルス山で7月25日、ボスニア・ヘルツェゴビナからの7人組登山隊が標高5100メートル付近で遭難し、5人が死亡、2人が生還する事故があった[1][2]。各国メディアは一斉にこの悲劇を報じ、特にクロアチアの各紙は、犠牲者の氏名や職業などの詳細に加え、地元救助隊責任者の談話を交えて事故の経緯を伝えている[3][4]。スロバキアのメディアは新たにロシア人登山者1名の死亡も伝えており、被害の全容については情報が錯綜している[7]。
何が起きたか
事故が起きたのは7月25日である。ロシア・カバルダ・バルカル共和国にあるエルブルス山(5642メートル)の標高5100メートル付近で、ボスニア・ヘルツェゴビナ中部ゼニツァ市の登山家ら7人が遭難した[2][4]。地元ガイドによると、登山開始時の天候は比較的良好だったが、状況は急変し、風速が強まった[2][3]。この悪天候の中、隊のメンバーであるハリス・アディロヴィッチ(43)が単独での下山に成功し、救助を要請した[3][9]。夜を徹した捜索救助活動の結果、もう1人の生存者ケマル・ヴィディムリッチ(38)が救助隊によって発見された。2人とも病院に搬送され、医師の診察を受けている[3][9]。一方で、残る5人は低体温症などで死亡したとみられる。ロシア当局は、まず2人の死亡を確認し、残る3人もその後死亡と判断した[2][6]。遺体の一部は5350メートル地点で発見されたが、強風と視界不良のため、直ちに収容することはできなかった[3][5]。ロシア捜査委員会は事故の調査に着手している[2]。また、スロバキアの日刊紙SMEはDPA通信やロイターの情報として、この悪天候でロシア人登山者1人も死亡したと報じており、死者は少なくとも合計6人に上るとしている[7]。隊のメンバーには夫妻や地元病院の医師も含まれていた[7]。クロアチアの日刊紙ユタルニ・リストは、地元メディアの情報として、犠牲者の中にゼニツァの山岳救助隊(GSS)の隊員2人と登山クラブ「ヴェドロ」のメンバー3人が含まれていたと伝えた[3][4]。
背景と文脈
エルブルス山はロシアとジョージアの国境に近い大コーカサス山脈の北側に位置し、欧州最高峰とされる休火山である。二つの頂上を持ち、山腹は広大な氷河に覆われている[2]。ロシアメディアは、エルブルス山の厳しさを示す前例として、この事故のわずか5日前、7月19日に11歳の少年が登頂中に死亡し父親が重傷を負う事故があったと注意を喚起していた[2][6]。エルブルスは比較的登りやすい高峰として知られる半面、今回のように天候が急変しやすく、風速70キロメートルを超える暴風や視界不良が短時間で発生する危険がある[2][5]。今回のボスニア人登山隊はゼニツァという同一の地方都市から集まったメンバーで構成されていた[4][5]。クロアチアのヴェチェルニ・リスト紙は、ゼニツァ市の山岳救助隊長ケナン・フルスタノヴィッチ氏の話として、同氏自身も膝の負傷がなければこの遠征に加わっていたはずだったと伝えている[4]。また、隊にはアコンカグアなど別の高峰の経験者がいる一方で、これほどの高所経験がない者も含まれていたことが、地元紙デヴニ・アヴァズの取材で明らかになっている[3]。複数のメディアは、事故の一因として、プロの登山ガイドを同伴せずに挑戦した可能性を指摘している。この点は、ロシア捜査委員会による調査の対象となっている[2][4]。
各国はどう報じたか
今回の事故は、主にバルカン半島と中・東欧諸国で大きく取り上げられた。クロアチアの日刊紙ヴェチェルニ・リストとユタルニ・リストは、犠牲者の氏名や職業、遺族の状況といった詳細なヒューマン・インタレストに紙面を割いた[3][4]。事故の直接原因については、ロシアの調査委員会の発表を基に「急激な天候悪化」と報じる一方、地元救助隊長や登山仲間の生々しい談話を引用し、地元ゼニツァのコミュニティが受けた衝撃の深さを前面に打ち出した[4]。生存者の実名や年齢をいち早く伝えたのもこれらのメディアである[9]。セルビアのB92は、ロシアの自営メディア「Lenta.ru」やテレグラムチャンネル「Shot」を主な情報源とし、風速のデータなどを挙げながら事故の時系列を整理した[6]。反応としては、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦の首相を務めるネルミン・ニクシッチ氏の哀悼の意と、遺体の本国送還に向けた政府の取り組みを伝えた[5]。スロバキアのSMEは、DPAやロイターといった国際通信社とロシアの地元当局の発表を併用し、事故を「少なくとも6名の死者を出した遭難」と位置づけた[7]。この6人という数字には、他国が主に伝えるボスニア人5人に加え、ロシア人1人が含まれており、情報源により被害の範囲に差異が生じている[7]。デンマーク公共放送DRは、ロイター電の簡潔な第一報にとどまったが、エルブルスがロシア領内にあるという地政学的な事実と、山としての基礎情報を簡潔に伝えた[1]。
今後の注目点
当面の焦点は、悪天候が収まり次第実施される残る遺体の収容と、ボスニア・ヘルツェゴビナ政府が表明した遺体の本国送還の進捗である[5]。同国連邦政府は7月27日を服喪の日と定めており、帰国後にゼニツァ市で営まれるであろう追悼式の推移も、クロアチアやセルビアのメディアで引き続き大きく報じられる見通しだ[5]。事故調査の最大の論点は、この登山隊がプロのガイドを雇っていたかどうかである[2][4]。調査を主導するロシア捜査委員会が、ガイド不在を安全対策違反と判断するか否かが、エルブルス山の商業登山ルートの規制強化につながる可能性がある。地元ガイドなしでの入山制限や、天候急変時の強制的な撤退を促すルール作りといった議論が、ロシア国内で浮上するかどうかも見ておく必要がある。さらに、スロバキアメディアが伝えたロシア人死亡者の有無や身元など、未確定の情報がロシア当局から公式に確認されるかも焦点となる[7]。