リード
欧州27カ国で6月22日から28日にかけて記録された1万650人の超過死亡は、気候システムの変化が公衆衛生に与える負荷の大きさを示す事象だ[1][6][8]。EuroMOMOのデータでは65歳以上が9千人超を占め、フランスとベルギーが「非常に高い超過死亡率」とされた[3][4][8]。一方、2022年にRousiらが発表した研究や2023年のBallesterらの研究は、欧州が熱波のホットスポットであり、高齢者への被害が構造的だと既に示していた[9][11]。ニュースの数字を研究の知見と重ねると、西欧での熱波加速という予測された文脈の中に今回の事象があることが見える。科学者は人為的気候変動なしでは今回の熱波は「実質的に不可能」と述べており、被害の規模は研究が警告した方向性と一致する[1][6]。
何が起きたか
6月22日から28日、西欧を中心に記録的な熱波が発生し、フランス、スペイン、英国などで気温がピークに達した[1][4][6]。デンマークでも6月27日に37度を記録した[4]。この週、欧州27カ国の死亡率統計をまとめたEuroMOMOネットワーク(ECDCとWHO支援、デンマークのStatens Serum研究所が運用)が、全死因の超過死亡を公表した[1][4][5]。数字は1万650人で、うち9千人超が65歳以上だった[1][4][6][8]。6月22日から28日の週の前の8週間は、これら27カ国の合計死亡率が平均週約500人予測を下回っていた[1][6][8]。EuroMOMOを統括するLasse Vestergaard医師は「この時期にこの規模の超過は珍しい。本当に高い」と述べ、極端な暑さ以外の説明は難しいと話した[1][3][4]。科学者らは、covid-19の流行など他の主要因子は確認されないとしている[1][3][6]。また、World Weather Attributionなどの科学者は、人為的気候変動なしでは今回の熱波は「実質的に不可能」だったと以前に述べている[4][6][8]。熱波は電力供給の乱れや学校閉鎖を引き起こし、フランスとベルギーだけが「非常に高い超過死亡率」と分類された[3][6][8]。データは今後改訂される可能性がある[1][8]。
研究が示してきたこと
2022年のEfi Rousi、Kai Kornhuber、Goratz Beobide-ArsuagaによるNature Communicationsの研究[9]は、過去42年間で欧州が熱波のホットスポットであり、北部中緯度地域の他の場所の3〜4倍の速さで上昇傾向を示したことを明らかにした。この加速はユーラシア上の二重ジェット気流状態の頻度と持続の増加と関連し、西欧の熱波では温度変動の最大35%を説明するとした。二重ジェット持続の上昇傾向が西欧の加速した熱波傾向のほぼすべてを説明すると結論づけ、リスク管理と適応戦略への含意を指摘した。2018年のYuming GuoとAntonio GasparriniによるPLoS Medicineの研究[10]は、1984年から2015年の20カ国・412コミュニティのデータを用い、適応策がない場合、熱波関連超過死亡は熱帯・亜熱帯で最も増加し、欧州と米国はより小さいパーセント増加にとどまると予測した。人口変動と温室効果ガス排出が高いほど将来の増加が大きいとした。2023年のJoan BallesterらによるNature Medicineの研究[11]は、Eurostatのデータから2022年5月30日から9月4日の欧州の熱関連死亡を6万1672人(95%信頼区間3万7643-8万6807)と推定した。イタリア、スペイン、ドイツが絶対数で多く、女性が男性より56%多いことなどを示し、既存の熱監視プラットフォームと予防計画の再評価と強化を求めた。
ニュースを研究で読み直す
今回の6月22日から28日の西欧での1万650人の超過死亡は、Rousiらが2022年に示した「西欧の熱波加速」という枠組みの中に位置づけられる[9]。同研究は二重ジェット気流の持続が西欧の熱波傾向をほぼすべて説明するとし、今回フランスとベルギーが特に高い超過死亡率となった事実[3][8]は、西欧という地理的限定が持つ脆弱性を裏付ける。Ballesterらが2023年に2022年夏の欧州熱関連死亡を6万1672人と定量化し、高齢者や女性への影響の偏りを明らかにした[11]のに対し、今回のEuroMOMOデータでも65歳以上が9千人超を占めた[1][4]。2022年の経験を経て適応策が語られていたが、今回も高齢者が圧倒的多数を占める構造は変わっていない。GuoとGasparriniの2018年研究[10]は欧州のパーセント増加が熱帯ほどではないと予測したが、それは相対的であり、絶対数の大きさを否定するものではない。今回の事象は、気候変動で熱波が「実質的に不可能」でなくなったという科学者らの評価[4][6]と、研究が示した欧州の加速傾向が現実の超過死亡として表れた事例だ。
残された問い
Rousiらの2022年研究[9]は西欧の熱波加速メカニズムを気流の変化まで遡って説明したが、特定の1週間の超過死亡を国別にどの程度説明できるかまでは示していない。EuroMOMOは国別の超過死亡を公表せず、フランスとベルギーだけが「非常に高い」とされた[3][4][8]ため、なぜ両国が際立ったのかの要因分解は研究の枠外だ。Ballesterらの2023年研究[11]は2022年夏全体を扱っており、6月単独の熱波による超過死亡の年次比較や、適応策実施後の死亡率低下効果を直接検証したわけではない。GuoとGasparriniの2018年研究[10]の「適応あり」シナリオの妥当性も、今回のデータで確かめられたわけではない。今回の事象が研究に突きつける問いは、6月末という早期の熱波がこれほどの超過死亡を生む状況で、既存の予防計画が高齢者を十分に守れたかという点だ。データの改訂[1][8]を待ちつつ、早期熱波への警報設計をどうすべきかが残されている。
日本から見ると
日本の読者にとって、欧州27カ国で1万650人という数字は遠い出来事ではない[1][6]。日本も高齢化社会であり、65歳以上が超過死亡の9千人超を占めた構造[1][4]は、国内の暑熱対策が直面する課題と重なる。Ballesterらが2023年に既存の監視プラットフォームと予防計画の再評価を求めた[11]ように、日本の熱死亡監視や避難所・エアコン普及策も、早期の熱波に対して機能するか点検が必要だ。Rousiらが指摘した気流変化を含む加速傾向[9]は、北半球的な現象であり、西日本や東日本の都市域でも類似のリスクが論じ得る。電力供給の乱れや学校閉鎖が起きた事実[6][8]は、産業や教育現場の事業継続計画を見直す材料になる。研究とニュースの交差は、気候変動下の公衆衛生を高齢者保護の視点から設計し直す必要性を日本にも示している。