リード
7月10日、ドナルド・トランプ米大統領は自身のソーシャルメディアTruth Socialで、イランが交渉継続を求めてきたとして米国がそれに同意したと述べた一方、両国の停戦は「終わった」と宣言した[1][3][4][11][13][15][17][19][21][24][25][26]。トランプは7月8日にトルコ・アンカラでのNATO首脳会議で既に停戦終了を口にしていた[2][4][10][11][25]。米国とイランは7月7日に相互攻撃を再開し、7月9日にはイランが湾岸の米軍施設を攻撃した[3][4][6][13][15][19][21]。カタールの仲介団が7月10日にテヘランを訪れ、緊張緩和を図っている[1][3][4][6][11][13][15][19][21][24][26]。
各国が一致する事実
どの国の報道も、7月10日のトランプのTruth Social投稿を事実として共有している。投稿の全文は「イラン・イスラム共和国が『交渉』の継続を求めてきた。我々は同意したが、米国は疑いの余地なく停戦は終わったと伝えた」というものだ[1][3][4][11][13][15][17][19][21][24][25][26]。米国とイランは6月17日に覚書に署名し、それまでの戦闘を止める枠組みを作った[1][2][17][19][20][25]。しかし7月7日に両国が攻撃を再開し、これが6月17日の覚書以降で最大規模の衝突となった[1][19][20][23]。トランプは7月8日のアンカラでのNATO首脳会議で停戦終了を宣言し、イラン指導者を「狂人」「ごみ」「病んだ人々」と罵った[2][4][10][11][25]。7月9日、イランはホルムズ海峡での商船攻撃への報復として、湾岸諸国の米軍施設をミサイルやドローンで攻撃した[3][4][6][13][15][21]。米軍はそれ以前の48時間でイラン国内の約170の目標を攻撃したと米中央軍が発表している(ベトナムの報道は90目標としている)[4][20][26]。クウェートでの攻撃で少なくとも1人が負傷した[1][19]。ペルーとベネズエラの報道は、この2日間の交戦でイラン領内で少なくとも14人が死亡したとしている[17][25]。カタールの媒介で、同国代表団が7月10日にテヘランへ向かい、航行の安全を話し合っている[1][3][4][6][11][13][15][19][21][24][26]。
問題定義の違い
各国が何を「問題」として切り取っているかは分かれる。ベネズエラの報道は、米国とイランの停戦破綻とペルシャ湾での交戦再燃を、地域の安全保障上の問題として提示した[25]。グアテマラの報道は問題を米国内政治に置き、11月の米中間選挙を控え、共和党が不人気な戦争に縛られている状況をクローズアップし、ガソリン価格の上昇を懸念材料とした[10]。コロンビアの報道は二つの層を持つ。一つはエル・ティエンポ紙が伝える通り、フランスが国連安保理の緊急会合でイランを非難した外交・責任の問題だ[7]。もう一つはニューヨーク・タイムズの寄稿を転載し、トランプが「中東に平和が来た」と宣言した直後に停戦が崩れたことを、合意文書の脆弱性の問題として描いた[8]。シンガポールのチャンネル・ニュース・アジアは、コメント記事でホルムズ海峡の航行ルートを巡るイランと米国の主導権争いを根本問題と見なした[22]。イスラエルの報道は、イラン側がイスラエルを報復攻撃の標的にすると威嚇した点を、自国の安全に関わる問題として強調した[12]。アルゼンチンやペルーの報道は、2月28日に死亡した最高指導者アリ・ハメネイの葬儀の時期と緊張激化が重なった点を背景として触れている[1][19]。
因果と責任の描き方
原因と責任の所在も報道ごとに異なる。ベネズエラの報道は、イランが交渉を求めたことと米国が停戦を終了させたことを並べ、イラン側の行動を非難する立場をとる[25]。アルゼンチンとレバノンの報道は、イランがホルムズ海峡で3隻の商船を攻撃したことが発端で、米国が報復し、イランが湾岸諸国の米軍施設を攻撃したという連鎖で原因を説明した[1][15]。ブラジルの報道は、米中央軍が48時間で約170のイラン目標を攻撃し、イラン革命防衛隊がバーレーン、カタール、クウェート、ヨルダンにある米軍拠点へ報復攻撃を仕掛けたという軍事行動の応酬として描く[4]。米国のCNBCは、イラン側が覚書の「イラン側の修正」や「絶え間ない攻撃威嚇」への反発を理由に米国を違反と主張していると伝え、責任の押し付け合いを提示した[23]。シンガポールのコメント記事は、6月17日の覚書がオマーン沿岸の航路とイラン沿岸の航路のどちらを使うかという対立を含んでいたことを根本原因とし、イランが実力で航路を制御しようとしていると論じた[22]。コロンビアの報道が伝えるフランスの国連代表ジェローム・ボナフォンは、イランが覚書に違反し隣国や船舶を攻撃したとして、イランに責任があると明言した[7]。
道徳的評価と引用元の違い
評価の視点と声の引用も分かれている。ベネズエラの報道はトランプの視点に立ち、イラン指導者を「ごみ」「病んだ人々」と呼んだトランプの発言をそのまま引用してイランを低く評価した[25]。アイルランドの報道も、アンカラでトランプがイラン当局者を「スカム(卑劣な人間)」「病んだ人々」と呼んだことを伝えている[11]。これに対しブラジルの報道は、イラン側の声を届けている。イラン議会議長モハマド・カリバフは7月10日、米国が暫定覚書を破れば「すべての戦線での防衛」に備えていると述べ、戦争がイランの降伏で終わることはないと主張した[5]。イスラエルの報道は、イラン最高国安保理書記モハマド・バゲル・ゾルガドルが米国攻撃への報復で「犯罪的なシオニスト政権(イスラエル)を戦士たちの対応から逃れさせない」と威嚇した声明を引用した[12]。エジプトとカタールの外交当局者の声も複数国で引用された。エジプト外相バドル・アブデラッティーとカタール首相兼外相シェイク・モハメド・ビン・アブドゥルラフマン・アル・タニは、7月10日に電話で「外交と対話の言葉を優先し、交渉の場に戻るよう」呼びかけた[11][13][24][26]。マレーシアの報道は抜粋から実際の論調を確認できない(出典は実名を明らかにしていない、あるいは本文が取得されていない)[16]。
欠けている視点
各国報道から抜け落ちている観点もある。ベネズエラの報道自体が、イラン側や欧州連合・国連などの第三国の公式コメントや評価が欠けていると分析しているが[25]、実際にインドの報道は7月10日、イラン外相アッバス・アラグチが米国の「違反と失策」を非難し、交渉要請自体をイランが否定したと伝えている[14]。アルジャジーラもイランがトランプの「交渉要請があった」という主張を直ちに確認しなかったとしている[20]。多くの南米や米国の報道は、トランプや米当局、イラン側の当局者は引くが、ホルムズ海峡の封鎖が現地の民間船舶の乗組員や湾岸住民の生活にどう影響しているかという視点を深く掘っていない。グアテマラの報道は共和党の選挙戦略に焦点を当て、原油価格の乱高下は書くが[10]、日本やアジアの消費国の立場は出てこない。マレーシアの報道は内容が不明で、東南アジアの立場からの分析がそもそも得られていない[16]。パキスタン首相シェバズ・シャリフが7月10日にイラン大統領マスード(出典は姓を明らかにしていない)と電話で協議したというウルグアイの報道はあるが[24]、南アジア全体の外交姿勢までは届いていない。