リード
7月14日のカイロ。大エジプト博物館の向かい側では、不動産会社MADがホテルやカフェ、レストランを含む複合施設を建てる計画を発表し、目に見える形で観光の風景が変わり始めている[1]。同じ日、エジプトの街では別の動きがあった。金融規制当局がこの日公表した報告で、金と銀の投資ファンドを買う人が6月末で約32万9000人に達したことが分かった[2]。ピラミッドの遺産を背景に、若者が貴金属ファンドを手元に置く。そんな日常が重なる。政府は公設民営で800校の学校を造り、2027年にはアフリカ競技大会を迎える[3][4]。遺産と現代化が混ざるまちで、生活者は何を楽しみ、何に向き合っているのか。この週のエジプトの空気を追った。
大博物館前のホテル計画が変える観光の顔
7月14日の記者会見で、Misr Abu Dhabi for Real Estate Investments(MAD)は、カイロの大エジプト博物館(GEM)の真正面という目立つ立地に、ホテルと小売店、レストラン、カフェからなる統合型ホスピタリティ施設を開発すると発表した[1]。エジプト屈指の文化・観光ランドマークの目の前に、現代のラグジュアリーが姿を現す。MADはエジプトの古い金融機関の一つを背後に持つ不動産投資会社で、銀行セクターのガバナンス基準と不動産専門知識を組み合わせ、活用されていない資産を目に見える価値へ変える戦略を掲げる[1]。同社は急速な拡大より、持続的な長期価値の創出を重視すると説明した[1]。計画地は博物館の向かいだけではない。南シナイ県ラス・セドルでは、同社が手がけるBlue Bayプロジェクトの全面改修と第1期の運用開始も発表されている[1]。紅海のリゾート開発も、彼らのポートフォリオの一角だ。現地の人々にとって、博物館前のホテル計画は、観光客を受け入れる街の玄関口としての意味を持つ。食事を楽しむ店が並ぶ景色が、ピラミッドの景観と隣り合う[1]。エジプトの観光がいまだ成長の中心にあることを、この計画が示している。
通貨の代わりに黄金を信じる人々
金融規制当局(FRA)が7月14日に公表した四半期報告によると、エジプトの金と銀の投資ファンドの純資産合計は6月に935億エジプトポンド(約280億円)に達し、3月末の約928億ポンドから増えた[2]。利用者は6月で約32万9000人。3月末の28万9000人から14%増えた[2]。このうち個人投資家が71%、機関投資家が29%だ[2]。金ファンド単体でも約30万6500人が七つのファンドに参加し、資産は920億ポンド(約276億円)を数える[2]。目を引くのは若さだ。20代が39.4%と最大で、30代が32%と続き、20〜40代で全体の7割以上を占める[2]。大カイロ圏が最多の投資家を抱える[2]。男性が個人投資家の83%を占める一方、女性は17%にとどまる[2]。銀ファンドは2026年第2四半期に初めて導入され、初の2ファンドが登場した[2]。伝統的に金の延べ棒や装飾品を資産にする国で、ファンドという形が若い世代の手元に広がる。金という目に見える資産を信じる感覚が、スマートフォンの画面の中でも生きている[2]。通貨の変動が続くなか、人々は自らの貯えをどこに置くかを日々考えている。
公設民営で800校、欧州認定の職業学校も
財務省PPP中央ユニット長のアッター・ハヌーラ氏は7月14日、第5回年次教育投資サミットの開幕セッションで、公設民営(PPP)で800校を設立する計画を進めていると述べた[3]。同氏は「政府も民間セクターも単独ではエジプトの拡大する教育ニーズを満たせない」と語り、両者の統合的なパートナーシップが必要だと強調した[3]。モデルはこうだ。政府が長期用益権で名目上の低料金で土地を割り当て、民間が資金を出し建設・運営する[3]。2019年と2020年に初のPPP言語学校プロジェクトを立ち上げ、2020年に運用を始めた[3]。第1期は年平均授業料が約5万2000エジプトポンド(約15万6000円)で、中所得層に良質な教育を手ごろな費用で提供した[3]。もともと5〜7年で800校に達する計画だったが、土地不足などで遅れている[3]。同時に、欧州認定の技術学校30校を立ち上げ、卒業生が欧州の労働市場で直接働けるようにする準備も進む[3]。工業分野などで実績のある私立技術学校の成功を背景に、国は人材を海外にも送り出す基盤を作る[3]。若年層が人口の大半を占める国で、教育の門をどう広げるかが、生活者の将来の暮らしを左右する。
年アフリカ競技大会へ、大陸の主導性誇示
マドブリ首相は7月14日、ゴハル・ナビル青年スポーツ相と会談し、2027年アフリカ競技大会の準備を確認した[4]。同大会はロサンゼルス2028五輪の予選を兼ねる[4]。首相はスポーツセクターの発展を国家優先事項と位置づけ、各種ナショナルチームへの支援を続けると述べた[4]。エジプトは世界級のスポーツ基盤と国際大会の開催実績を持つと自負する[4]。ナビル相は、アフリカのスポーツ機関との調整や、大会に含める競技数を増やしてアフリカ選手の五輪出場機会を広げる提案を支持すると述べた[4]。ロサンゼルス五輪に向けた各競技連盟の技術準備計画として、予選ルートや有望なメダル候補チームの育成も説明した[4]。この準備は、2026年FIFAワールドカップでのサッカー代表の成果を受け、国民の熱気を競技場につなぐ機会となっている[4]。エジプトがアフリカと国際スポーツで占める主導的な位置を示す場として、街の期待は高まっている[4]。選手たちが国内や海外の合宿で鍛える姿が、準備の季節の背景にある[4]。
日本から見ると
日本では少子化で学校の統廃合が進む半面、エジプトは公設民営で800校を造り、欧州認定の職業学校で海外就労を狙う[3]。若年層が人口の大半を占める国ならではの前向きな拡大だ。金や銀のファンドが若者に支持される背景には、通貨の信頼を補うための資産形成の知恵がある[2]。日本の若者が現金や預金を中心にする傾向と対照的だ。大博物館前のホテル開発やアフリカ競技大会の準備は、古代の遺産と現代のにぎわいを隣り合わせにするエジプトのスタイルを示す[1][4]。日本の街で遺産のそばに新しいカフェができるときの違和感や喜びと、どこか通じるものがあるかもしれない。