リード
英国政府は7月13日、国内のユダヤ人コミュニティを標的とした一連の放火・破壊事件について、イランの支援を受ける「イスラム右派同志運動(IMCR)」の犯行と断定し、同組織を違法化すると発表した[1][2][3]。同時に、攻撃の背後にいたとされるイラン革命防衛隊(IRGC)についても、その支援行為を禁止する方針を明らかにした[1][2]。キア・スターマー首相は「これらの新たな権限により、英国で彼らの汚れ仕事を行う者を訴追・収監しやすくなる」と述べ、議会での早期承認を目指す考えを示している[2][5]。
何が起きたか
英国政府は7月13日、イランの支援を受ける「イスラム右派同志運動(IMCR)」を違法化し、イラン革命防衛隊(IRGC)への支援も禁止する方針を発表した[1][2][3]。アンジェラ・イーグル安全保障担当相は声明で、IMCRが英国で7件の攻撃に関与したと主張した[1][3]。イーグル氏は「IMCRの背後にはイランのイスラム革命防衛隊コッズ部隊のメンバーがおり、彼らが欧州全域でのIMCRの攻撃をほぼ確実に指揮していた」と断じている[1][3]。この発表の背景には、ロンドン北部で今年に入り相次いだ反ユダヤ主義的な攻撃がある。5月初旬にはエッサ・スレイマン(45)がユダヤ教徒の男性2人を刃物で襲撃する事件が発生し、英国のテロ脅威レベルは「相当」から「重大」に引き上げられた[1]。その後も、ユダヤ人慈善団体「ハツォラ」の救急車4台が放火されるなど、シナゴーグや関連施設を狙った破壊行為が続いた[2][4]。スターマー首相は7月13日、ダウニング街で開かれたユダヤ人コミュニティとの会合で、IRGCを国家安全保障上の脅威と認定し、「わが国を恐怖と分断と暴力をまき散らす国家の遊び場には決してさせない」と述べた[5]。この禁止措置は新たな法案に基づくもので、議会で承認されれば、これらの組織のために破壊活動を行った者は最高で終身刑に処される可能性がある[3][5]。
背景と文脈
今回の英国政府の決定は、外国勢力が正規の軍事力ではなく、犯罪組織や小規模な代理グループを使って国内で破壊活動を行う手法への危機感の高まりを背景としている[2]。英国の情報機関は、イランやロシアといった国家が、監視、破壊工作、物理的な攻撃を請け負わせるためにこうした代理組織を利用していると分析してきた[2][4]。イラン革命防衛隊(IRGC)は1979年のイスラム革命後に設立された精鋭軍事組織で、国外での特殊作戦を担うコッズ部隊を擁している[3]。英国はIRGCに対してすでに制裁を科していたが、今回の措置は組織への支援行為そのものを刑事罰の対象とする点で、より踏み込んだ内容となった[3]。6月には英国、米国を含む22カ国が、IRGCとコッズ部隊がイランの反体制派、ジャーナリスト、ユダヤ人コミュニティに対する陰謀を企てていると非難する共同声明を発表していた[3][4]。IMCRは今年初めにオンライン上に出現した組織で、ロンドンでの放火事件に加え、ベルギーやオランダのシナゴーグへの攻撃についても犯行声明を出していた[3]。なお、英国政府が7月13日に発表した禁止対象には、IMCRとIRGCに加え、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の義勇兵部隊も含まれている[4][5]。この点は、特定の国家による脅威への対抗というより、国家が非正規の主体を使って行う「ハイブリッド戦争」全般への法整備という性格を色濃く示している。
各国はどう報じたか
このニュースを報じた各国メディアの論調には、強調点の違いが見られた。アルゼンチンのラ・ナシオン紙は、英国のテロ脅威レベルが「重大」に引き上げられた事実を大きく扱い、反ユダヤ主義的な脅威の深刻さを前面に出した[1]。イスラエルのタイムズ・オブ・イスラエル紙も、ロンドンでのシナゴーグや救急車への放火といった具体的な被害状況を詳細に伝え、ユダヤ人コミュニティが直面した物理的危険に焦点を当てている[3]。ブラジルのバロール紙は、問題の本質を「外国勢力による代理組織の利用」と定義し、英国がこれに対抗するために導入した新たな法的権限の仕組みに注目した[2]。ラトビアのTVNETも同様に、国家安全保障への脅威という枠組みで報じ、IRGCと同時にロシアのGRUが禁止対象となった事実を並列して伝えることで、特定の地域や宗教の問題ではなく、国際的な安全保障上の課題として位置づけた[4]。ペルーのエル・コメルシオ紙は、スターマー首相が「恐怖と暴力の遊び場にさせない」と述べた強い言葉を引用し、英国政府の断固たる姿勢を強調した[5]。各国の報道に共通するのは、英国政府の発表をほぼそのまま伝える形であり、イラン政府やIMCR側の反論は、いずれの記事でも大きく取り上げられていない。ロイター通信の取材に対し、在ロンドンのイラン大使館は即座のコメントを出していない[2]。
今後の注目点
第一の注目点は、英国議会での法案審議の行方だ。政府は7月13日の週内の承認を見込んでおり、可決されればIRGCやIMCRへの支援行為に対する刑事罰が直ちに適用可能となる[3][5]。これにより、実際に捜査や訴追がどこまで進むのか、その実効性が問われることになる。第二に、イラン政府の公式な反応である。現時点で在ロンドンのイラン大使館はコメントを出しておらず、イランがこの措置をどのように受け止め、報復措置に出るのかは不透明だ[2]。第三に、IMCRが犯行声明を出したベルギーやオランダなど、欧州の他国が英国と同様の法的措置に踏み切るかどうかも、今後の国際的な連携の広がりを占う上で重要な指標となる[3]。より長期的には、この英国の新たな法的枠組みが、国家による代理組織の利用を抑止する国際規範の形成につながるかが焦点となる。6月の22カ国による共同声明は、すでに国際的な問題意識の共有を示している[3][4]。日本としても、同盟国や同志国がこうした新たな脅威にどう立ち向かおうとしているのか、その制度設計と運用の帰趨を注意深く見守る必要がある。